第6号 (2002年 9月掲載)




 刀剣研師 中尾豊次 様 


 プロフィール
お生まれ 昭和23年 福岡県北九州市
趣 味 パソコン、洋蘭作り
好きな言葉 守・破・離(しゅはり) 解説は本文に記載。
経 歴 高校生の頃から父の許、下仕事を手伝い始めこの道を歩み続ける。
(財)日本美術刀剣保存協会姫路支部 常任理事

 研師(とぎし)という人生 

 岡山県の北東部に位置する緑豊かな英田町(あいだちょう)に大阪から移り住んではや27年が経つ。この道に入るきっかけは簡単明瞭である、高校3年生のある日、父の仕事場に入り込んだその日から我が人生「研師」の始まりであった。ただ何となく手伝い始めた頃は、今日の自分の姿など想像をもしていなかった。かといって無理強いをさせられた訳でもなく、多少の反発はあったが時の流れに自然に溶け込んでいった感じだったと当時を振り返る。

 修行となる研磨の基礎を学びながらの7年後、25歳での結婚を期に父からの独立。「生活」を営むというそれ迄になかった新たな環境は、転機ではあったが今にして思えば生活を維持する為に「仕事」をこなすといった日々であったという。順調に仕事はあったが、何か物足りなさを感じ始めたのが40歳を過ぎた頃であった。この時期から研師の奥義を見つめ始め、自分の技術を見つめ直した時、はたしてこの世界で自分の技術はどの位のものなのか知りたくなった。

 平成4年、(財)日本美術刀剣保存協会・刀剣研磨外装技術発表会に初めて出展、「優秀賞」を受賞
した。しかし初めて自分の技術がこの世界での評価を受けたことで、今迄とは違った研磨への熱い志の炎が燃え上がった。
 剣道など習い事をするときの原則と言われる「守・破・離」という用語がある、「守」=師匠の技術を受け継ぐ段階、「破」=師匠の技術を破る段階、「離」=誰も出来ない境地に立つという意味で、自分はこの道で「離」の域に到達することがこれからの目標であり実践であると心に決意した。
 型は昔から代々受け継がれてきているが、少しずつ独自の工夫が加わって次第に新しい型が出来上がってくる。伝統的でありながら独自の技術を確立できれば、おのずと求められる依頼も相応の物に変わってくると信ずる。ここ数年着実に変わりつつある自分と取引先に充実感を覚えながらも、まだまだ達することのない「極みの域」に向かって鍛錬の日々が続く。

 パソコンと私

 パソコンを始めて数年、活用方法も様々。インターネットにメール、写真管理に顧客データの管理。
田舎にいても世の中の情報がリアルに手に入るインターネットの面白さもあるが、最近驚いたことに
ホームページによる研磨の依頼メールがカナダから送られてきたことがあった。物流においても宅配業者によって日本はもとより海外へも手軽に運べることで、現在の住まい環境に不便さは感じない。
 しかし、預かった刀剣に時代の背景を思い巡らせると、こうした現代利器の文明に相反する壮大な歴史絵巻が頭の中で繰り広がれ、何とも言えないロマンを感じることが出来るのも幸せである。
これからも日本の歴史ロマンを味わっていただけるような作品づくりにより一層精進してまいります。

 お問い合わせ

 刀剣研師(とうけんとぎし) 中尾豊次
  岡山県英田郡英田町真神201
  
TEL 0868−74−2911
  
E-mail:t_nakao@mx31.tiki.ne.jp

 編集後記

 今回は、刀剣を間近かで見る機会を頂けただけでも大変貴重な体験でした。テレビなどで見ると、光り輝く刃先に少々美化し過ぎた感がありましたが、目の前でキラリと陽光に反射する実物の刀を見ていると何やら不思議な魔力に吸い込まれ行くような気持ちになります。
 何とも言えない「刃文」(※)の美しさは、現代における最高の美術鑑賞品かもしれません。また確かに時代の歴史ロマンをも感じさせてくれる貴重な遺産でもあります。
 ぜひ中尾様には、これからもこの素晴らしい伝統工芸を守り、さらなる発展を願います。

刃文:刃を丈夫にするための焼入れを行うと、刃の部分と地の部分に硬度の差によって生ずる模様。




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